オーちゃんが帰国してから、俺のYouTubeは『切り貼りの在庫処分』みたいになった。
過去の動画から、彼女の後ろ姿や笑い声、街を歩く影だけをつなぎ合わせる。
「一緒にいる感」を必死に演出する作業だ。
だが、やがて素材は尽きた。
仕方なく、一人だけの動画を撮ることにした。
【NYの日常】ひとりでも大丈夫。俺のリアルVlog
字幕を入れたが、再生数は58回、コメントはゼロ。
深夜、自分で作った「NYカップル記念日」動画を再生する。
オーちゃんが肩をすくめて笑った瞬間、思わずにやけてしまう。
「……これ、やっぱ最高だよな」
自分の表情に少し引きながらも、再生を止められなかった。
オーちゃんのいない動画は、もうニューヨークの紹介ですらなかった。
ゲーム実況、愚痴、寝起きの独り言、ビール片手に酔っ払ってカメラに語りかけるだけの映像。
「フォロワーが増えない。でも…負けない。誰かが見てくれてると信じてる」
そう言いながら、空き缶をゴミ袋のある方に放り投げる。
生活はすぐに崩れた。
昼過ぎまでベッドに沈み、スマホで配達アプリのリクエストが鳴るとようやく起き上がる。
Uber Eatsだけでは足りず、DoorDashも始めた。
雨に濡れたブルックリン・ブリッジを自転車で渡り、クイーンズの薄暗いアパートにピザを届ける。
客はドアを開けず、「玄関に置いて」と叫ぶ。
帰り道、チェルシー・マーケットの観光客が食べるロブスターロールを横目に、ポケットには4ドルのチップ。
「まあ…今日は調子がいいね。」
金を作るため、部屋の棚からゲームソフトを引っ張り出した。
PS4のRPG、Nintendo Switchのマリオ。
eBayに出したが、全部合わせても60ドルにならなかった。
「……俺、何やってんだろ」
そう思った瞬間、「でもこれもリアルってやつでしょ」と心の中で自己肯定。
弱音は吐かない。
だって、自分はまだ『勝ってる』と思っているから。なんてったって、グリーンカードを持っているんだから。
オーちゃんが戻ってきた時点で、俺の中ではもうハッピーエンドだった。
だが、現実には誰も見ていない。
YouTubeのライブ配信はコメントゼロ、視聴者数5(そのうち自分は1)。
それでも俺は笑顔で締める。
「お給金欲しいので、チャンネル登録、いいねお願いします!」
その言葉だけが、今の俺の唯一の『社会とのつながり』だった。